【ご注意】この創作小説は『ToHeart』『雫』『痕』『こみっくパーティ』『WHITE ALBUM』『DR2ナイト雀鬼』『フィルスノーン~光と刻~』(Leaf製品)の世界及びキャラクターを片っ端から使用し、サンライズ作品『勇者王ガオガイガー』シリーズのパロディを行っております…って逆か<ヲ Leaf作品のネタバレも含みますが今更だよねー<ヲ
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東鳩王マルマイマー 最終章〈FINAL〉
第25話「命」(Bパートその2)
作:ARM
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【承前】
扉に激突した智子は尻を床に打ち、一瞬のけぞる。
撃たれたのは右肩であった。
「が……はあっ!」
智子は悪寒を覚えているかのように小刻みに震えながら左腕を挙げ、血が噴き出す右肩に添えた。
「急所は外しておいた」
鷹橋はかつての幼なじみを見下ろしながら冷たく言った。
激痛の渦の中、智子はそんな冷たい眼差しをする鷹橋を見上げて睨む。
「もう、誰も破滅を止める事は出来ない。諦めろ」
「アホ……ゆぅなや……」
智子は悔しそうな顔で仰いだ。
「こないなコトして……何の得があるんや」
「無いな」
「だったら!」
「無駄だ。人は滅びる運命だ」
「――」
智子は理解した。
この男は、狂気しか見えていないと。
軽い絶望が智子に去来した。
ふと、足下に転がる小銃の存在に気付く。不断の智子なら弾倉に弾が入っているかどうか直ぐ気付いていたが、焦りがここでミスを招いた。
「ち……っ」
智子は左手で小銃を掴み、近くの机の陰に隠れた。
「今更隠れてどうする」
智子が弾倉が空の銃を持って物陰に隠れるのを、鷹橋は余裕で見逃した。
「うっさい、仕切り直しや……」
物陰に隠れた智子は、ふぅ、と息を吐く。朱色に染まった激痛が右肩の自由を奪っていたが、肘から先は何とか動かせていた。
「肩の骨やられたか……痛っ」
激痛が智子に冷静さを取り戻させていた。
違和感。
人類の破滅を望む男のその姿から感じる、奇妙な違和感であった。
智子は鷹橋と対峙していたはずだったのに、まるで別人と向かい合っているような錯覚に見舞われていた。
鷹橋が何故あそこまで人類の破滅を望むのか。
どうしても理由が思い当たらない。
無論、狂気は時として理由など求めない破壊衝動を生み出す事もあるのは判っている。
だが、この鷹橋から感じられるそれは、一貫した理由が存在する。
人類の滅亡。
智子はこの緊迫した状況で必死に考えた。
鷹橋が人類の滅亡を望む理由。
「……無い」
智子は思わず仰いだ。狂気を理解しようなど到底無理な話なのだろう。
しかしこの違和感はどう説明出来ようか。
もう一呼吸して、智子は先ほどタテからはぎ取った上着を左手で漁る。
智子は気付いていた。それが内ポケットに入っていたのを。
奪った小銃で使える、89式普通弾が2発が。
(はぁ……ガメてたか予備のつもりで持っていたのか知らんが、弾をむき身で……リュウ兄ぃ、アホと判っててあの二人配置してたようだけど、斜め上のアホとは思わなかったようやね)
智子はタテのアホさ加減に仰いだが、今はそのアホぶりが救いとなった。
ポケットからそれを取ると、小銃から空の弾倉を引き出して静かにその2発を詰めていく。
そして弾倉を再び差し込み、ボルトハンドルを引いて最初の1発を薬室に送り込んだ。
ほぼ片手で、しかも利き腕でないほうで扱わなければならない。しかも2発しかない。銃床を肘と脇腹で挟み、肘から先は何とか動かせる右腕で銃床の上を押さえた。セミオートで撃つしかない。
智子は撃てればいいと思っていた。
そっと机の影から鷹橋の様子を窺う。
鷹橋は智子に背を向け、管制用コンソールに向かっていた。
それを見て、智子は溜息を吐いた。
そして吹き上がるように立ち上がり、鷹橋に銃口を向けた。
「そこまでやで」
「空で何が――」
鷹橋は振り返りもせず言うが、それを発砲音が遮った。
「あんたんとこのアホが予備の弾持っていたんやで」
「……ああ、そう言う事」
鷹橋はゆっくりと苦笑いする顔を智子に向けた。
「あとできつく言っておくよ」
「頼むでホンマ」
智子も苦笑いしながらボルトを引いた。最後の一発である。
「次は当てる」
「出来るのか?」
「当てないと、もうリュウ兄ぃは止められへん」
命のやりとりに関わる凄惨なそれは、端で見れば仲の良い男女の会話のようである。
「もう一度言うで。――もう、止めよ」
「止められないと言ったはずだ」
その返答に、鷹橋に向けられている銃口が一瞬ぶれる。智子の迷いがそのまま動きとなった。
「それにたった今、メイドロボたちをロックしている機構の最後の制御を施したよ」
「え……」
「つまりAIを破壊し二度と目覚めなくなるソリッドをロードした」
智子は絶句した。
「だいたい3分後には完了するだろうな」
「リュウ兄ぃっ!」
智子は激昂し、小銃の重さを忘れて左手を持ち上げ銃口を前へ伸ばした。
「これで全てが終わる。人も、メイドロボも、そしてこのふざけた世界も」
「あんたは……あんたはっ!」
「最期にお前と話せて良かったよ」
そう言って鷹橋は智子に再び拳銃を向ける。しかし今度は問答無用で撃たない。誘っているようであった。
「撃てよ。お前と心中も悪くはない」
「何眠たい事抜かしてんねん!」
涙目の智子は鷹橋を睨んだ。
「あんたは! 何もか失くしたみたいな気持ちで勝手な事やって! ――人はなぁ、誰かが見ててくれる限り諦めたらあかんのや!」
智子の一喝。それは鷹橋に動揺の一矢を与えた。
「あたしは諦めへん! マルチたちも、人も、世界も、――あんたもな!」
わたしは
ながいあいだ
ねむっていたようなきがします
そのあいだ
いろんなひとがいかり
いろんなひとがないて
いろんなひとがちからつきていきました
わたしはみているだけ
みているだけしかできなかった
「――?」
智子は鷹橋の異変に気付いた。
銃を向けている鷹橋が虚ろげな顔をしていた。
それはこのような局面では致命的な隙であった。
にもかかわらず智子が先手を取れなかったのは、鷹橋が漏らした一言だった。
やめろ。
智子にはそう聞こえた。だから動けなかった。
「――黙れ」
「!?」
智子は慌てて降ろしかけた銃口を再び戻す。
(――何や、今の?)
直感的に、智子は先ほどの違和感を思い出した。
そして気付いた。
「誰」
そう、『誰』。
「……誰、なの、この男?」
鷹橋龍二。
姿、形、声は、そう。
だが、中身は、確かに違う。
「まるで、リュウ兄ぃに何かが取り憑いて――」
智子はそこにたどり着いた時、漆黒の闇の中に光を見つけた気分だった。
「黙れ」
もう一度、ソレはそう言った。その一言に智子は、疑念の渦から再び緊迫の世界へと引き戻された。
「……無駄だ。もう破滅は止められない」
鷹橋は智子に銃口を向けた。小銃を向けていた智子は動揺もあってそれを止められなかった。
だから、撃つしかなかった。
銃声が重なった。今度は二人同時に仰け反った。
もう、みているだけなんて――嫌です!
智子は少し仰け反っただけで、直ぐに膝を突いてその場を保った。撃たれたからではなく銃を無理に撃った痛みからであった。
智子は何が起こったのかのか理解出来ていなかった。
撃たれた事よりも、パネルが一斉にエメラルド色に輝いた事が智子の関心を占めていた。
「これは――」
続いて鷹橋が膝を突いた。構えていた銃は右手からこぼれ落ち、血を流す右肩を左手で押さえていた。
そして突然仰いで絶叫した。
ば か な
まるで獣の咆吼であった。見ようによっては断末魔のそれに近かった。
しかし直ぐに鷹橋はコンソールパネルに手を突き絶叫をやめた。
鷹橋は虚ろげな目で手元のコンソールパネルを見つめた。
エメラルド色に照り返されるその顔が、ゆっくりと驚愕に支配されていった。
「……AIを破壊するソリッドが次々と書き換えられていく?」
「まさか――まさか――っ!」
智子の顔がみるみるうちに笑顔になっていく。
「あいつら――自力で――プロテクトを――」
「そんな……有り得ん……」
鷹橋は愕然とした顔を向けていた。
しかしそのつぶやきがこの事態に対してではない事を、智子はほどなく気付いた。
後ろに人がいたのだ。
鷹橋はそれを見て愕然としていた。
智子は振り返る。そして驚いた。
「あんた――」
「やあ」
そこには、のんびりとした笑顔で応じた黙示が手を振っていた。
「久し振り」
「あんた! 死んだんじゃあっ!」
「残念、生きてます。死にかけたけどね」
「どうやって……」
鷹橋は浮かされたような顔で聞く。親友が生きていた事がまだ信じられないようである。
「荷電粒子で吹き飛ばされる前に、風姫たちに助けられてな。加速が強すぎて俺も美紅も気絶してそのまま病院行きで。俺はマジで一度臨死状態に」
「美紅……」
智子が一瞬呆ける。
「朝比奈女史っ!あの人も無事かいっ!」
「んなデカイ声でいうない」
黙示は思わず耳を押さえた。
「人工聴覚の調子がまだ良くないんだ」
「人工……」
「ああ」
そう言って黙示は上着を脱いだ。その身体の左胸から左腕は鈍い色の金具に覆われていた。
「心臓はTHライドの技術から作られた人工心臓、左腕はボロボロで機械の腕と総取っ替えだ。さっき鷹橋の銃の弾道を逸らしたのは左手に仕込んだワイヤーを使った」
「あ」
智子は目を丸めて自分の身体をポンポン、と叩く。今頃になって弾が当たっていない事に気付いたのである。
「弾当たっちゃった方はボケてるみたいだが」
黙示はまだ自分を見て呆然としている鷹橋を指した。
言われて智子は呆れたふうに溜息を吐き、鷹橋の元へのしのしと歩いていく。
そして深呼吸をしてから、平手打ちを一発。銃で撃ち合っていたのが馬鹿らしいくらいの一撃である。
鷹橋は抵抗もせず平手を受けるとその場にへたり込んだ。
「リュウ兄ぃっ!何ボサッとしてんねっ!」
智子は渇を入れる。そこでようやく鷹橋は瞬いた。
「あ、ああ……はぁぁ」
疲れ切った溜息だった。鷹橋は憑き物でも落ちたかのような貌でまた黙示を見た。
黙示も鷹橋の元に近寄り、鷹橋の顔をニヤニヤ笑いながら覗き込んで言う。
「ばーかばーかばーかっ。鷹橋、お前昔から考えすぎなんだよ。あとあきらめんの早すぎ」
「黙示さん、あんたそういう愉快なキャラだったんかい……痛っ」
智子は思わず苦笑いするが、直ぐに肩の痛みを覚えて歪む。
「お、おい」
鷹橋が心配そうな顔で智子を見る。
「智子、大丈夫か?」
「何心配してんねんっ、コレ、リュウ兄ぃが撃ったんやないかいっ!」
「ああ」
鷹橋は思わず右手を顔を押さえた。
「悪い」
「悪いで済むなら警察要らんでっ!」
智子は呆れて怒鳴るが、何故か突然笑い出した。
「……さっきまで人類滅びろとか厨二全開だったのに……笑うしかないわぁ……ははは」
「全くだ。タチの悪いギャグとはこの事か」
黙示も笑い出した。
鷹橋はゲラゲラ笑う二人を困惑の貌でもてあましていた。
「……ったく、まぁ」
智子は笑いながら涙を流していた。しかしそれは笑いすぎて涙が出て来たのではない。
「……良かった……リュウ兄ぃ……やっと……」
「……俺は」
鷹橋は思わず背けるが、黙示は鷹橋の頭を鷲掴みにして無理矢理正面に戻す。
「だからごちゃごちゃ考えんなっつーの。お前さん、思考が“あの男”の支配下にあったんだからな」
「ははは……あの男?」
「ああ」
黙示は立ち上がり、
「リハビリの間、美紅とともに調べていたんだよ。“次郎衛門の呪い”をな」
「“次郎衛門の呪い”?」
「然様」
黙示は手前のコンソールパネルに触れる。再起動したモニタにはケージから起き上がるマルチたちの姿が映し出された。
「“次郎衛門”の呪い。それは鬼界昇華し、人類からエルクゥ=人類原種へと進化した男の妄執だ」
いつの間にか黙示の顔から笑みが消えていた。どこか緊張しているようにも見える。
「それは柏木の男の血に代々受け継がれ、彼らの運命を狂わせ続けていた」
「狂わせる……」
鷹橋は呟いた。
「それは直系のみならず、かつてエルクゥの男たちに陵辱された女性たちが生んだ子孫達にも及んでいたとしたら?」
「――」
鷹橋は黙示に質問しようとした言葉を思わず詰まらせた。
「まず、結論から言おう」
黙示は鷹橋を指し、
「鷹橋。お前はダリエリではない」
「な――」
「次郎衛門の妄執に取り憑かれていたんだよお前は」
そう言うと黙示は腰に下げていた携帯電話サイズの機械を二人に見せた。
「ソレは試作中の新型オゾムパルスキャンセラー」
智子はその機械を知っていた。
「ミスタ――月島拓也が使用していたソレより遙かに性能が向上したものだ。ぎりぎり間に合った」
「ぎりぎりって」
「鷹橋は、別の人間のオゾムパルスとリンクしていた。それをこれで断った。さっきの絶叫はその証拠」
「リン――」
鷹橋は愕然とした。
「まだ思考が混乱しているだろうが、柏木の血を継ぐ鷹橋は、自分の意志と思わされていただけで、実は今までそいつに操られていた」
「「なん……だと?」」
鷹橋と智子は仰天した。
「エルクゥたちの習性は保科女史も知っているだろう。エルクゥの男たちは戦闘時、女たちとのリミビットチャネルによって的確に動く種族だという事に」
「ああ、そんな話らしいな」
「マルマイマーらはそれを工学的に再現したシステムで運用されている。それが鷹橋にも同じ事が起きていた。ダリエリに認定されたあの時からずうっと、お前はあの男の替え玉として動かされていた」
「替え……玉?」
「ああ。本物のダリエリを隠す為に」
「隠す、って……いったい何の事だ?」
鷹橋は戸惑い気味に聞く。今まで自分の人生を狂わせていたそれが全否定されたのである。
「ああ。隠し通す必要があった。『本当の敵』から、覚醒するまで隠さなければならなかった。――そう、来栖川京香は言っていた」
「京香さんが! なんで?! ていうか何やその『本当の敵』ってのは!」
「エルクゥ」
「「え……」」
智子と鷹橋は思わず顔を見合わせた。
「……いや、だから、あたしらMMMが戦っているのは」
「エルクゥだな。しかし正確には違う」
「違う、って?」
「活動停止した〈クイーンJ〉は最終的な駆逐目標だが、奴の力を利用しようとする存在が二人いる。一人は――」
「……何よコレ」
MMM基地へ向かっていた志保は、途中巨大なクレーターを発見する。
先ほど上空から爆音が聞こえ、気になってその方向ヘ向かった先で見つけたのだが、そこで更に志保を驚愕させるものがあった。
クレーターの中心に、ボロボロになって倒れている〈神狩り〉最強メンバーの二強、〈閃光の剣士〉ジーク・シュトロハイムと〈予知言〉伯斗龍二、そしてその向こう側に佇む一体の朧がいた。
「お前は――〈ザ・サート〉!」
志保の声に、鬼界四天王の一強が反応した。
「ほほう、この声、長岡志保だな」
「コレはいったい……」
志保は倒れている二人を見て愕然となる。
「流石は〈神狩り〉の二強、流石の我が輩も死んでしまったわ」
「死んだ、って……」
志保はそこでようやく気付いた。
〈ザ・サート〉の身体が、あの月島瑠璃子と同じオゾムパルス体になっていることに。
「まぁ、肉体など魂の足枷に過ぎぬからな、丁度良い機会だったよ。お陰でこの二人にも勝てた」
「くっ……」
志保はロンギヌスの槍を構えた。
「貴様ぁ、よくも!」
「ったく、人類の破滅を望むイカれたアホかい」
「同感だ」
黙示は肩をすくめた。
「しかしそいつはまだいい。問題はあと一人のほう。そして今回の黒幕――」
「……見つけた」
初音と共に新宿目指して進んでいたワイズマンはその声に気付いて振り返った。
初音も気付いて振り返ると思わず声を詰まらせた。
「見つけたぞ、親父っ!」
怒りに支配された獣の咆吼がワイズマンに浴びせられた。
柏木耕一。
柏木賢治。
数奇な運命の末にこの柏木の親子が今、最期の対決に望む。
(画面フェードアウト。ED:「それぞれの未来」が流れ出す)
第25話 了
【次回予告】
君たちに最新情報を公開しよう!
勇者メイドロボ軍団、遂に復活。人類の最後の希望が目覚め、最後の決戦に立ち上がる。
長岡志保vs〈ザ・サート〉、柏木耕一vs柏木賢治、数奇な宿命に翻弄された二組が遂に雌雄を決する。
そして宇宙の深淵より飛来するエルクゥ大宇宙船団。再生を続ける〈クイーンJ〉。
果たしてマルチたちは人類滅亡のカウントダウンを止められるのか?
東鳩王マルマイマー・最終章〈FINAL〉!
第26話「勇気ある者」
次回も、ファイナル・フュージョン承認!
勝利の鍵は、これだ!
「ロンギヌスの槍を構える長岡志保」
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糸冬
2012/01/09(Mon)
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